イ・ジヌク

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2025.07.30

MEDIA

Men Noblesseインタビュー“善き人”

“善き人” ジヌク
境界が取り払われた先に、いっそう鮮明になったイ・ジヌク。
 


“素敵だ” 俳優イ・ジヌクを表現するのに、これほどふさわしい言葉があるだろうか。彼の澄んだ瞳や整った鼻筋、すらりとした背丈や柔らかな声など、外見的な要素のことではない。2003年のデビュー以来、毎年欠かさずカメラの前に立ち続ける誠実さや、大きな役・小さな役を選ばない柔軟さ、相手を心地よくさせる謙虚さについての話である。

イ・ジヌクは謙虚だ。ひけらかすことがない。それでも、どこかほのかに自信がにじみ出る。その二つが共存するのは、簡単なことではない。だからこそ、彼は“無害な人”として映るのかもしれない。若き日のマーロン・ブランドから、青春の生々しさや無鉄砲さ、生意気さといったものをそぎ落とし、純粋な結晶だけを残したような存在感。洗練され、礼儀正しく、温かみのある人というイメージを完全にまとっている。こんなに多層的な世界のなかで、これほどシンプルなキャラクターとして長く愛され続けている理由は、彼の優れた外見と、変わらぬ姿勢、柔軟さ、そして謙虚さが見事に組み合わさっているからにほかならない。

「イカゲーム」シーズン2・3で、イ・ジヌクは作中でもっとも異質なキャラクター、ギョンソクを演じる。道徳的な欠陥や善と悪、利他と利己が入り混じった他のキャラクターたちに比べ、彼は一貫して善良で正義感にあふれた選択と行動を続ける。このように非現実的とも言えるキャラクターに説得力を与えられるのは、俳優イ・ジヌクだからこそだ。

彼と何度も仕事を共にして感じたのは、“善き人”だということ。これは共に現場をつくるエディターやスタッフの共通した評価でもある。実際のところ、彼がどんな人物なのか、どんな闇を内に秘めているのかは誰にもわからない。だが、20年以上にわたりロマンチックで善良、そして品のある俳優として活動を続けてきたこと、現場で共に汗を流す仲間たちから好意的な声が絶えないこと、そしてこれからも着実に自身のフィルモグラフィーを広げていくだろうということ。そうしたすべてが、彼を“素敵だ”と思わせるのだ。
 


 

6か月ぶりだ。少し痩せたように見えるけど?
最近ランニングをしているんだ。実はずいぶん前にも始めたことがあるんだけど、当時は楽しさを感じられなかった。あの頃は速く走らなきゃとばかり思っていて、きつくて楽しむどころじゃなかったんだ。今はゆっくり走るようにしている。

ファンに気づかれて立ち止まることも多いのでは?
主に早朝に走るし、ランナーたちはみんなそれぞれのペースで忙しいから、人に気づく暇もないよ。ナムサン(南山) 周辺の道をよく走ってる。上り坂と下り坂が交互に現れて、けっこう楽しいんだ。

自己管理を続けているからか、年を取らないようだ。今でも映『ビュティー・インサイド』の整った顔立ちの年ウジンが思い浮かぶ。
お酒もタバコもしないから、老けにくいのかもしれない。友人たちを見ていても、お酒やタバコは老化と確かに関係があるようだ。
 


俳優の中にはお酒で散する人も多い。プレッシャが大きくて忙しい職業だけに、ストレスを解消する方法があまりないのだろう。お酒をまないイジヌクは、たまったものをどうやって解消しているのか?
僕には「ストレスを発散する」という概念がない。もちろんストレスは多いが、それにあまり執着しないようにしている。うまく切り分けて、手放すことにしている。もちろん、手放したからといって完全に消えるわけではないが、自分から“切り離す”ことが大事だ。そうして時間が経てば、その問題はもう重要ではなくなる。

道士みたいなマインドだ。(笑)
道士はそれを超越した存在だ。僕もストレスはたくさん受けるが、そこからくる苦しみや悩みに、できるだけ影響されないようにしている。正直、こんな性格だとは自分でも思っていなかった。でもこうしてインタビューを受けながら、だんだんわかってきた。
 


「イカゲーム」シーズン3が今も好調なスコアを維持している。これまでもグローバルOTT作品には何度か出演してきたが、前作とは規模が違う。
反響の大きさがまるで違う。これほど注目が集まった作品はなかった。海外で声をかけられることがぐっと増えた。小さな役にもかかわらず、覚えてくれているのが不思議だ。正直、役の大きさを考えると少し気恥ずかしくもある。

ファン・ドンヒョク監督とは『怪しい彼女』でいいシナジー効果を見せた。それでも、作品の規模を考えると、俳優イ・ジヌクにとっては簡単に引き受けられるような役ではなかったはずだ。
今回のキャラクターはキャスティングの中でも一番最後に決まった役だった出番は少ないが、監督の悩みが詰まった役どころだった。信頼できる俳優に任せたいという監督の気持ちがあった。そうした思いを知っていたからこそ、オファーを受けたときは嬉しかった。役の大小を超えて、楽しい仕事になると思えた。ファンとして現場を体験してみたい気持ちもあった。

ギョンソクは、シーズン2・3の参加者の中でも最も興味深いキャラクターだ。最初から最後まで一貫して善良で正義感にあふれている。善と悪、利他と利己といった二面性が強調される他のキャラクターたちとは違って、ずっと“善き人” なのだ。立体的ではないが、だからこそ目を引く。
確かに、参加者の中では最もまともな人物だ。だからこそ監督が頭を悩ませたのだと思う。彼はほぼ唯一、最後まで生き残る参加者でもある。

だからイ・ジヌクにオファーが届いたのではないか?この顔立ちなら、修羅場の中でも善良さを保ち続けるギョンソクというキャラクターに説得力が出るから。単に“イケメン”なだけでは説得力に欠けるはずだ。
それはちょっとわからない。(笑)ただ、キャスティングチームの中で「この役は絶対にイケメンがやらなきゃダメだ」という冗談交じりの話があったとは聞いている。自然に同情心が湧いてくる、そんな人物だ。



外見の話をけると、日前にテレビで偶然『ラヴソング(原題:甜蜜蜜)』をまたた。あの澄んでいて善良なまなざしを見て、ふとイジヌクが思い浮かんだ。あの目を思わせる人、そしてあんな無害なキャラクタを一番自然に演じられそうな俳優は、今の韓ではイジヌクしかいない。
気分のいい褒め言葉だ。(笑)『ラヴソング』は本当に好きな映画だ。何度も観ているが、観るたびに違う印象を受ける。そういう映画ってある。自分も最近『花様年華』を観返したが、以前とはまた違って見えた。若い頃は色使いやムード、スタイルが好きだったけれど、今は登場人物たちの置かれた状況や、演技の細やかさに感動する。あの居心地の悪い状況や、ぬぐいきれない感情。そういうものが、年を重ねた今は感じられるようになった。

4年前のインタビューでも似たような質問をしたがする。フィルモグラフィーを見ると、“誠だ”という言葉以外出てこない。2003年のデビュ、休むことなく走りけてきた。マラソンのように、安定したペスで。まるで何か使命感を背負っている俳優のようだ。
できるまでやる。そんな気持ちで演じてきた。

何ができるまで?トップ俳優?カンヌ国際映祭の主演男優賞?すでに多くのことを成し遂げているようにも思える。
自分はそういうタイプではない。多くの俳優が最高の演技や、受賞の瞬間を夢見ると思う。でも、僕がもしそういうことを追い求めていたら、こんなふうに熱心にはやれなかった気がする。きっと傷ついていた。(笑)けっこう前に気づいたんだ。与えられたことを、目の前の役を、自分ができる演技をやろう、と。競争するよりも、ただ最善を尽くそう。そうすれば、何かしら形になるだろう。そんな気持ちでやってきた。



どこよりも熾烈な世界で、20年以上キャリアを積み重ねてきた。それもトップで。自分の情熱について、あまりにも謙遜しすぎているのではないか?イ・ジヌクの沸点が高すぎるのでは?
自分には、熱湯までは必要ない。ラーメンがちゃんと煮えるくらいで十分だ。これは“熾烈じゃない”という意味ではない。他人と競い合って頂点を目指すあまり、自分を追い込んだりはしない、ということだ。子どもの頃、徒競走に出たときも、1位が取れなかったからといってがっかりしなかった。全力で走れば、1位にもなれるし、3位のときもある。ときには入賞できないことだってある。自分にとって大事なのは、1位になることよりも表彰台に立つことだ。

俳優は他人の人生を生きる職業だ。これだけ長い間、いろんな役を演じてきたら、メンタルにもよくないのでは?
俳優になってから、自然人イ・ジヌクとして生きた時間は、30%にも満たないと思う。役を準備して、その役から抜け出すまでの時間まで含めたら、もっと少ないはずだ。だから、いつかは本格的にメンタルケアをしないといけないなと思っている。ありがたいのは、自分がそういう面ではかなり自由だということだ。役にどれだけ入り込むかという話ではなく、役と自分との間に大きな隔たりがない。混乱することもないし、うまく切り離せるタイプだ。



無頓着なタイプなのだろうか?2年前、Men Noblessのニュクでのインタビュで、担エディタがあなたに「取らない人だ」と言ったのにし、あなたは「神質だ」と答えていた。イジヌクという人に近いのは、どちらなのか?
神経質な方だ。正確に言うと、ものすごく神経質だ。でも、誰かを不快にさせたくはない。だからこそ、無頓着に見えるようにしている。よく言うだろう。「本当に気が利く人は、 気が利かないように見える」って。

以前、俳優のカム・ウソンをインタビュしたとき、こんなことを話していた。「相手がバカに見えるなら、それはその人があなたを遣ってくれているってことだ」と。そういう種類の遣いなのだろうか?
その通りだ。それは謙遜とか、自分を低く見せることとは違う。相手が心地よく感じられることを大事にしている。もう現場では“ベテラン”と呼ばれる立場になったが、お節介を焼くタイプではないから、後輩俳優たちをあれこれ細かく面倒見るわけではない。ただ、できるだけ快適な環境をつくろうとしている。その方が実力がちゃんと発揮されるからだ。

そこまで達観できる秘訣をぜひえてほしい。
そんな秘訣なんてない。(笑)ただ、物事のポジティブな面を見ようとしている。人に対しても、仕事に対しても、起こる出来事に対しても、悪い部分より良い部分に目を向けるようにしている。だから人間関係もうまくいっている。今まで不快な関係のまま終わった人はほとんどいない。誰に対してもよくしようと心がけている。だから逆に、本当に近い人たちが寂しく感じることもある。自分の神経質さや口うるささが、そういう人たちにばかり向くからだ。(笑)もちろん、そういう人たちには、他の人とは比べものにならないくらいよくしているつもりだ。



フィルモグラフィがあまりに豊富なので聞きづらい質問だが、イジヌクが考える代表的なキャラクタはあるか?
おそらくtvNドラマ「ナイン~9回の時間旅行~」のパク・ソヌじゃないかな?キャラクターが自分の性格とよく合っていて、演じながら共感もできた。作品のスタイルも自分に合っていた。

個人的にはイ・ジヌクのキャラクタの中で『虎よりも怖い冬の客(原題)』のギョンユが印象的だ。貧しい春の苦しさと理想が現にぶつかった瞬間の惑いがよくわっている。
共演者たちもそのキャラクターを気に入っている。自分にとっては特別な経験となった作品だ。中年を目前に控えた青春の終わり、その曖昧な時期についての省察と言えるだろうか?ほとんどの人は自分の思い通りに人生を進められないものだ。そうした現実がうまく反映されていると思う。

イ・ジヌクも春がしいものか?もし再び20代にれるとしたら、その頃にりたいと思うのか?
今の記憶と経験をそのまま持って?いや、それなら嫌だ。(笑)20代の頃、ひどく不安だったわけでも、混乱していたわけでもない。ただ、あの頃は本当に最善を尽くして生きていた。それだけに、今また同じだけのことをやりきる自信はない。



では、40代の人生はどのように流れているのか。
穏やかな心だ。以前よりもずっと平穏な気持ちで過ごしている。前よりも多くのことを理解できるようになった。以前は考えもしなかった裏側や事情が見えるようになった。だから怒ったり悩んだりすることが大きく減った。

それなら、これからは少し怠けて暮らすこともできるのでは?やりたかったことをしながら。
僕のことをよく知っている人たちは、僕の人生を一番うらやましがる。やりたいことを全部やってきた人だって。仕事は一生懸命やってきたが、その合間には行きたい場所に行き、食べたいものを食べ、欲しいものを手に入れてきた。一つのことに長くのめり込むタイプではないが、好奇心が旺盛なのでいろいろ試してみるタイプだ。だから、仕事が自分のやりたいことの障害になることはない。

4年前に会ったときはバイクに夢中で、2年前はゴルフにハマっていた。最近のイジヌクが興味を持っていることは?
ずっと続いているのは旅行だと思う。最近はまた東京に行きたくなっている。東京をベースキャンプにして、関東地方のあちこちを回りたい。食べたいものをたくさん食べながら。

写真提供:Men Noblesse
出処:Men Noblesse